森見登美彦 『熱帯』 感想

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このブログでも何度か触れてきた大好きな作家さん、森見登美彦さん。

先月、森見さんの新刊『熱帯』が出版されたので、早速手に取ってみました!

本当はハードより場所を取らない文庫本を買いたいなーという願望は相変わらずあるけれど、森見さんの本とあらばそんなことも言っていられず(笑)

前作の『夜行』は電子書籍で買ってみたのですが、やっぱり小説は読みながらぱらぱら読み返したくなることも多いので、今回はハードで買って正解だったかなと思います。

電子であればどこでも、そしてすぐにでも読めるというのはやっぱり大きな利点だけども。

 

ということで、以下、ざっくりですが『熱帯』の感想を書いてみます。

核心に触れるようなネタバレはありませんが、他の森見作品含め内容に触れることもあるかと思うのでご注意ください。

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森見登美彦 『熱帯』 あらすじ

この作品のあらすじを一体どう書けばいいのか、ちょっと悩むところですが。。(笑)

冒頭は、作家、森見登美彦が次に書く小説の内容に悩んでいるところから始まります。

悩みながらいろいろな本を手に取って読んでいた彼は、『千一夜物語』の本を手にしたことから、

学生時代に読んだ謎の本、佐山尚一という人物によって書かれた『熱帯』について思い出します。

 

読んでいる最中にその本をなくしてしまった森見氏は、それ以後、その本に出合えることはなく、その結末を知らないまま。

けれどある夜、友人に誘われて行った「沈黙読書会」という怪しげな会で、彼は『熱帯』を所有している女性に出会うのです。

『熱帯』とは一体どんな小説なのか、そこには何が書かれているのか。

『熱帯』にまつわる長い長い物語が、そこから幕を開けるのでした。

感想(ネタバレなし)

この本について一言で言うなら、面白い、けれど私にとっては難解な本でもありました。(一言になってないけど)

本の帯に森見さんの直筆で、「我ながら呆れるような怪作である」と書いてあるのですが、

いや、もうまさにそれ!(笑)

とにかく森見ワールド全開、という感じなので、この本を読まれる方はその前にいくつか森見作品を読んでおくことをおすすめします。

 

作家、森見登美彦の視点で語られる第一章が私はすごく好きなのですが、

そこからまたころころと主役が交代し、「あれ、私は今何を読んでるんだっけ??」とふと思わされる迷宮感。

物語がまた次の物語を生み出し、全然違うストーリーが始まるかと思えば、森見作品にはお馴染みのあれやこれやが登場したり、

『四畳半神話体系』のようなループ感というかパラレルワールド感というか、そういったものが渦を巻いているようで、

とにかくすごい作品です。これを書き上げること自体がほんとにすごい。

 

個人的な好みで言えば、第三章の中盤くらいまでがとにかく面白くてどんどん世界に入って読んでしまった感じ。

このあたりは『宵山万華鏡』とか『夜行』に通ずるミステリアスな雰囲気もちょっと漂っていて、やっぱり私は森見作品のそういうところが特に好きなんだなあと実感。

 

それ以降は、まったく上手い表現が見つからないのですが、「ああ、『ペンギン・ハイウェイ』を書いた人の作品だなあ」という印象がけっこう強かったかも。

現実的な世界から、なんだか不思議な世界へと舞台が無限に広がっていく感じというか。

一体この物語の結末はいかに??と、どう収集がつくのか最後まで予測できませんでした。

でも全体に一貫性を持たせ、しっかりと締めるところがやっぱりさすが森見さん。

 

物語全体のモチーフとなっているのは、有名な『千一夜物語』です。

『アラビアンナイト』の名称でも知られるイスラム世界の説話集ですが、

私含め多くの人が連想するであろう『アリババと40人の盗賊』なんかは、あとからヨーロッパなどで付け足された物語で、もとの『千一夜物語』には入っていないのだとか。

 

ではこの『千一夜物語』がどういうお話かと言うと。

むかしペルシャにいたシャハリヤールという王様が、妻の不貞を知って女性に恨みを持ち、

毎夜処女を連れてこさせてはその純潔を奪い、翌日にはその首を刎ねるという所業を続けていたところ、

見かねた大臣の娘、シャハラザードが自ら王のもとへ行き、

毎夜シャハリヤール王に不思議な物語を語り出すというお話。

朝になるとシャハラザードが物語を途中で止めてしまうため、続きが気になる王は彼女の首を刎ねることができず、

シャハラザードは自身の語る物語により、自分や他の女性たちを救っていく、という物語だそうです。

 

私は本物の(?)『千一夜物語』は読んだことがなく、

まず思い浮かぶのはリムスキー=コルサコフ「シェヘラザード」という美しい交響組曲ですが、

この曲の通り、ミステリアスで妖艶な雰囲気も持った物語なのだろうと想像しています。

『千一夜物語』の中では、シャハラザードが語る物語の登場人物が更に物語を語り、

森見先生の表現を拝借すると物語のマトリョーシカみたいな状況が次々と発生していくようで、

その迷宮感、まさに『熱帯』そのものだなあと思うと、『千一夜物語』にもすごく興味が湧きました。

ありとあらゆる本を読んできた作家さんが、自身の好きな本をモチーフにして物語を書くということ、本当に面白いと思います。

 

森見ワールドに浸りたい方、物語のマトリョーシカを実感したい方には特におすすめの本ですが、

物語の内容以外にも、やっぱりいつも感心してしまうのは、森見先生の情景描写。

紡がれる日本語が本当に美しくて(その反面、阿呆な台詞とかもあるところがまた良い(笑))、

どうしたらこんな目で世界を見られるんだろう、こんな表現ができるんだろう、と毎度ため息もの。

 

基本的には京都が舞台の物語が多いので、京都はたしかに素敵な街だし、京都だったらこんな美しい表現ができるかもしれないよなーいいなー、

なんて思ったりもしたのですが、

今回は表参道など、東京も舞台のひとつとなっていて、

自分の比較的行き慣れたというか、日常的な場所でさえも森見先生の手にかかると何か特別な街のように見えてきて、

その表現力が本当にすごいな、と脱帽しました。。

今回、果てしない森見ワールドの中で迷子になりそうになりつつも(笑)、

『熱帯』を最後まで読み切ることができたのは、やっぱり森見先生の書かれる文章がとてつもなく好きだからなのだと思います。

 

一時は心身の不調(?)でお仕事をお休みしていた森見さん、

またこうして森見さんの新作を読むことができるようになり、一ファンとして本当に嬉しいかぎりです。

今後もずっと森見作品を読み続けていきたいなー(*´v`)

 

 

という感じで、ちょっと長くなりましたが、『熱帯』の感想でした!

読みながら頭がついていけず、「えーと、これなんだっけ? 誰っけ?」みたいになりながら強行突破した部分もなくはないので(笑)、

また落ち着いた頃にじっくり読み返したいと思います。

他の方の感想もいろいろ覗いてみたいなあ。

 

Liebe Grüße,

Natsuru

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