『夜行』

森見登美彦さんの最新作、『夜行』を読みました。

これまでの森見作品の集大成とも言われる本作ですが、
読んで納得。

『夜は短し歩けよ乙女』や『有頂天家族』等々ではなく、
『きつねのはなし』、『宵山万華鏡』に近いテイストの作品です。

つかめそうでつかめない、奇妙で不可思議な物語。
いろんな謎が絡み合い、出口のない迷路をさまよっているような感覚になるけれど、
それが森見さんの作品の醍醐味だと思う。

読み終わった後にアマゾンとかのレビューを読んだのですが、
明るく面白い森見作品を期待すると、やっぱりちょっと肩すかしを食らうようです。

でも、『宵山万華鏡』とかが気に入った方なら絶対楽しく読めるはず!
私にとってはもう面白くて面白くて、
ほぼ一日で一気に読んでしまう作品でした。

「ホラー」とか「ミステリー」とか言うとちょっと違うな、と思うんだけど、
この独特の、本当に霞みがかったような不思議な話の運びが大好きでした。

かつて「鞍馬の火祭」で友人の長谷川さんが失踪して以来、
10年ぶりに再び祭りに訪れることになった私(大橋)、中井さん、武田さん、藤村さん、田辺さん。

彼らは会うことのなかった10年の間にそれぞれの身に起きた不思議な出来事を順に語っていくのですが、
場所も時間も異なるそれらの物語には奇妙な共通点があったり、
背筋が凍りつくような不気味な出来事が起こったり。

気味悪いけど、ちょっと怖いけど読みたい。
読者にそう感じさせる本当に絶妙なラインの話運びで、
これでこそ森見さんだなあ、と感服しました。

森見さんの作品と言えば、
作中で表現される京都の町の美しさ、妖艶さが一番と言って良いくらいの魅力ですが、
今回は舞台がいろいろな町に飛ぶのもまた魅力的でした。

森見さんの独特の視線で語られる「尾道」、「奥飛騨」、「津軽」、「天竜峡」。
どれも美しく、きっとこの作品を書く前に森見さんは各地を旅して、
こんなふうに感じたんだな…と思わせられるものばかり。

個人的には、「津軽」の章に夜行列車の「あけぼの」が出てくるのが嬉しかったです。
今はもうなくなってしまった夜行列車ですが、
幼い頃に何度も乗って、秋田の祖母の家へ行った思い出が詰まった列車です。

それから、むかしからちょくちょく森見作品に出てくる
「夜の底」という表現が私はとても好きなのですが、
それが川端康成の『雪国』に出てくる表現だということを、
恥ずかしながら初めて知りました。

森見さんが数々の影響を受けてきたであろう日本の文学作品、
もっと読まないともったいないなあ、と思わされました。

それにしても、ここまでの章のどれもにぞくりとする場面が詰め込まれているのがすごい。
私がもっとも印象的だったのは、やっぱり最初の「尾道」かなあと思うけど、
「津軽」の奇妙さも怖かったなあ。
それでいて何度も読み返したくなる何かがあります。

最終話の「鞍馬」。
なんというかもう、この「きつねにつままれた」ような感じ。

詳しくはここには書きませんが、
作品の鍵になっている岸田道生という芸術家の、
「夜行」という銅版画と「曙光」という銅版画。
それを通して、世界が常に表裏一体であることを思い知らされたような気がしました。

少し『四畳半神話体系』も思い出したけど、
きっと森見さんの中には「自分たちが生きている現実がすべてではない」
という感覚がずっとむかしからあって、
それをこんなふうに作品で表現してるんだろうな、と。
あらためてそう感じる作品でした。

なんだか長い夢から醒めたような、
長い旅路からようやくもとの場所に戻ってきたような読後感。

余談ですが、今回初めて電子書籍でこの物語を読みました。
iPadが古すぎてあまり機能しないので、
携帯の小さな画面で食い入るように読み進めていたのですが、
読み出すと物語に夢中になって、違和感なく読めたのがちょっと意外でした。

先の展開が目に入ってこないので、そういう意味でも恐怖倍増だったかも(笑)
ただ、読み終えた後にもう一度ぱらぱらと読み返したいシーンがあるとき、
やっぱり普通に本で読むのが一番だなあとは思いました。
目も悪くなりそうだし(笑)

でも携帯ひとつでどこでも本が読めるっていうのは素晴らしいなあ。
やっぱり面白い本を読み進めていく時って最高に楽しくて、
まだ出会っていないたくさんの作品に早く出会わなくちゃ、って思った。
最近どうも一度読んだ作品を読み返すことが多いので、
新しく開拓していきたいなと思います。

そんなわけで、森見さんの最新作『夜行』、
個人的にはかなりおすすめです。
気になっている方はぜひ!

Liebe Grüße,
Natsuru

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