辻村深月 『冷たい校舎の時は止まる』感想

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ここ最近読み返してきた辻村深月さんの作品。

タイトルからして、なんとなく寒い時期に読み返しておきたかった辻村さんデビュー作、

『冷たい校舎の時は止まる』の感想です。

 

読むのは今回で3回目くらいだったと思うのですが、読み返すのはかなり久々で、けっこう重要なラストの展開とかもぼんやりしか覚えていなかったのだけども(なんで何回か読んでも重要なシーンとか忘れてしまったりするのか、いつも不思議。。)、

そのおかげもあり、先の展開に興味津々ですごく楽しく読めました!

 

以下、あらすじや感想を書きますが、

ネタバレする時は事前に注意喚起するので、読んだことない方も良かったらこの先を読んでみてください。

 

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あらすじ

やむ気配のない雪が朝から降り続けていたその日。

高校3年生の辻村深月は、いつものように幼なじみの鷹野博嗣と一緒に青南高校へ向かった。

しかし、校舎はまるで今日が休講であるかのようにひっそりと静まり返っている。

教師たちの姿もない中、その日登校してきた生徒は全部で8人。深月、鷹野、充、昭彦、清水、梨香、景子、菅原――いずれも、教師のが担任を務めていたクラスの学級委員だった。

いつまで待っても他の生徒が登校して来ない中、彼らは自分たちが校舎に閉じ込められてしまったことに気づく。

 

開かない扉、5時53分で止まった時計、圏外を告げる携帯電話。奇妙な現象が起こる中、彼らはある重大な事実に激しい違和感を覚えていた。

2ヶ月前の学園祭で、屋上から飛び降りて自殺した同級生。その生徒の顔も名前も思い出せない。

時間の止まった校舎の中で過ごす彼らは、やがて恐ろしい仮説にたどり着く。

自殺したのは、自分たち8人のうちの誰かかもしれない――。

※作中に出てくる「辻村深月」は、本当は「辻」の字のしんにょう部分が点ひとつです。

感想(ネタバレなし)

辻村さんのデビュー作であるこの作品はかなりの長編。

辻村さんの作品にお馴染み、キャラクターがしっかり立っている登場人物たちのおかげで、まるで漫画を読んでいるような感覚でするすると読めるのですが、

それでもボリュームたっぷりで、かなり読み応えがあります。

これこそ、辻村さんの原点なんだ、と思える作品。

 

『スロウハイツの神様』なんかも、「一人ひとりが主役」みたいな部分があると思うのですが、

この作品はそれ以上に、登場人物一人ひとりがすごく掘り下げられていて、この人物のこういうところ好きだなあとか、この気持ちわかる!とか、いろんなシーンに共感してしまい、

最後には登場人物たちのことが、まるでよく知っている友達のように感じられました。

 

辻村さんは本当に、誰もが持っているような複雑な心情を描写するのが上手い。

普通、敢えてそこまで書く人はなかなかいない、という心の動きにしっかり向き合い踏み込んでいくので、

「ああその感じ、わかるわかる!」、「私の気持ちを言葉で表すとそういうこと!」みたいな、痒いところに手が届く感とでも言うのかな。

そういうところがぴったりハマって、辻村さんのファンになる人も多いのだと思います。

 

ひたすら雪が降り続ける中、閉鎖された校舎に閉じ込められた生徒たち、というシチュエーションなだけに、

やはり全体的に暗めな雰囲気で話が進んでいくので、ハマる人にはハマるだろうし、ちょっと精神的に元気がないときとかは読むのがつらい人もいるかもしれません。

でも、爽やかな季節を思わせてくれる温かみのあるラストには、きっと「ここまで読んできて良かったな」という気持ちにさせられるはず。

デビュー作なだけあり、若い作家さんの持つ勢いや、自分の中にあるすべてを詰め込み、さらけ出して書いた感があり、まさに渾身の一冊、という感じがします。

 

正直、初めてこの作品を読んだ20代前半くらいの頃は、主人公が「辻村深月」という名前である点がどうしても引っかかってしまって。。

作者が自分の名前(一応、漢字は違うんだけど)を作中に出してくるときって、すごくプラスに働くときと、逆にマイナスに作用してしまう両極端なパターンになると思うのですが、

初めて読んだとき、私はこれがなかなか受け入れられませんでした。

(ちなみに、作中に作者の名前を出す手法ですごく上手いなあと思った話は、森見登美彦さんの『新釈 走れメロス』内にあります)

 

作中の深月はざっくり言うと、精神的にとても弱く、過去に親友といろいろあって衰弱し、周囲の男子や友人たちに守ってもらっているような人物。

こういう書き方をすると語弊があるのですが、まるで「悲劇のヒロイン」的なポジションで、その人物に作者の名前を与えるのはいかがなものか…と、どうしても思ってしまったのです。

 

でも今回読んでみて、自分も少し年を重ねたからなのか、不思議とこの点があまり気にならなくなりました。

気にならなくなったと言うか、きっとこの物語を書き、主人公のひとりに自分と同じ名前を与えることによって、

辻村さんは自身が抱えていたもやもやや、過去のつらい経験を昇華させたのだろう、と思うようになったのです。

 

辻村さんのインタビュー記事とかはちょっとしか読んだことがないので、もしかしたらどこかで詳細を語られているかもわからないのですが、

辻村さんの作品を読んでいると、きっと過去に女友達といろいろぶつかることがあったんだろうな、とか、決して楽しいばかりの学生生活ではなかっただろうな、と思うことが多く、

そういうつらさを手放すために作品を書いている、という部分もけっこうあるような気がするのです。

 

『ファウスト』がゲーテにとって過去の過ちから自身を救済するための物語であったように、

この作品は、辻村さんにとって自分自身を救済する物語、という意味合いが強いのではないかなと思います。

そう思うと、こんなふうに自分の心情や実際にあった(かもしれない)出来事と向き合い、それを投影させたこの作品は、

なんとも芸術家らしい作品だなあ、と思えるのです。

 

「自殺した生徒の顔も名前も思い出せない」というところが、後の作品、『名前探しの放課後』と対になっている感も面白いところ。

こちらは「過去にあった自殺」だけど、『名前探し~』はこれから起こる未来の自殺。

直接関連があるわけではないけど共通点があり、話の内容も雰囲気も全然違うという部分でも楽しめます。

『名前探し~』の方は、打って変わってとても明るい印象の物語です。

 

 

長くなりましたが、ここからちょっとネタバレありの感想を書きたいと思います。

未読の方はご注意ください。

 

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感想(ネタバレあり)

この作品、いくつか読者を驚かせてくれるポイントがあると思うのですが、

私は初めて読んでいた時、うっかり何かのレビューで菅原の正体を知ってしまい。。(笑)

そこにびっくりできなかったことがちょっと悔やまれます…。

知ってた、と言ってもちょっと本名を目にしたくらいで、その他は何の先入観もなく読めたので、彼のエピソードも普通に楽しんで読めたんですけどね。

彼の過去話はやっぱり今回も読んで泣いてしまった。

初読の時はもう1人のヒロがあの博嗣だったり、普通に日本人だと思って読んでいたサトちゃんがハーフだったことなどにも驚かされました。

 

最初から菅原の正体を知って読むと、彼の行動のひとつひとつがなんだか感慨深いというか、

みんなに慕われて当然だよな、という気持ちにさせられます。

 

私は女子の中では梨香が一番好きなのですが(彼女の暮らす家やむかしのエピソードなど、そこはかとなくリアリティがあってすごいと思う)、

梨香と榊のエピソードもすごく良かった。私はこの2人にぜひうまくいってほしい(笑)

 

景子とかは、しゃべり方がけっこう二次元っぽいなあと思わなくもないのですが、彼女がこういう立ち居振る舞いしかできなくなってしまった理由を知ると、なんだか納得。

諏訪裕二も、メインではないのにとっても良いキャラしていて好きです。

この2人の未来は、短編集でも読めますよね^^

 

清水あやめも意外と好きで、器用貧乏というか、優秀であるがゆえの苦悩とか格好悪さとか、なんかちょっと応援したくなってしまう感じがあります。

ラストの鷹野とのシーンが、彼女が主役の短編『しあわせのこみち』(『光待つ場所へ』に収録)につながってくるところも素敵。『光待つ場所へ』もとても好きな短編集なので、またいずれ感想載せたいと思います。

 

あと、印象深いのは昭彦のエピソード。彼の、年齢の割に達観している感じや安定感のあるところが好きです。

ちょっと違うけど、『名前探しの放課後』の秀人と似た雰囲気を感じる。

 

もけっこう重要なエピソードを持ってはいるけど、他の人たちに比べるとちょっと印象薄めだったかなあ。最初にいなくなってしまうので仕方ない部分ではあるけど。

 

鷹野も、深月の幼なじみ、という印象くらいで初めて読んだときはそこまで印象に残らなかったんだけど、

今回読んで、「自殺したのは深月かもしれない」ということへの彼の憤りややりきれない気持ちが伝わってきて、良いキャラクターだな、とあらためて感じました。

昭彦とは違う感じで安定感があるのも良い。彼に関しては、清水とのエピソードがすごく印象に残っています。

 

 

「自殺したのが誰なのか」は、初読の時も明かされる前になんとなく気づいていました。

どこで気づいた、とか明確なシーンは特にないんだけど、私はこの作品を読む前にいくつか辻村作品を読んでいたので、これまでの傾向からなんとなく(笑)

角田春子は最後まで理解しがたい部分のある人物だったけど、ラスト、しっかりと彼女が締めてくれた印象です。

 

『冷たい校舎の時は止まる』、短編集の『ロードムービー』と『光待つ場所へ』を読むとまた印象も変わってくる作品だと思うのですが、

私はこの2つの短編集についてもすっかり内容を忘れているので(笑)、

またこれから読み返して、もうしばらく『冷たい校舎~』の世界を味わおうと思います。

 

私は小説しか読んだことないのですが、この作品は漫画にもなっているようなので、小説よりそちらの方が入りやすい、という方はそちらを読んでみるのもありかなと。

もう明日から3月ですが(笑)、ぜひまだちょっと寒いうちに、作品の世界にどっぷり浸かっていただきたいです!

 

Liebe Grüße,

Natsuru

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