辻村深月 『凍りのくじら』感想

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2018年になったらやろう、と思っていたことがいろいろできていないままですが、

来週はもう3月になるようで。。2月はやっぱり短い。。。

 

読んでからちょっぴり時間が経ってしまいましたが、

辻村深月さんの本、今回は『凍りのくじら』の感想です。読んだのは今回で3回目くらい。

ネタバレする時は「ここからネタバレ」と注をつけますので、読んだことない方もそこまでお進みいただければと思います(笑)

 

あらすじ

高校生の芦沢理帆子は、いつも周囲と距離を置いてしまう傾向があり、どこにいてもそこが自分の居場所だとは思えない。

写真家の父、芦沢光が5年前に失踪してからは母と2人で暮らしてきたが、今はその母も入院中。

元カレとの関係性に悩みつつ、これまで誰かと本音で向き合うことのなかった理帆子だったが、

ある日、別所あきらと名乗る青年が現れ、自分の撮る写真のモデルになってほしい、と頼まれる。

理帆子は別所と大好きな『ドラえもん』について語る中で、徐々に心を開いていく――。

感想(ネタバレなし)

この作品は、作者である辻村深月さんの『ドラえもん』への愛が詰まっている作品だと思います。

最初からずっと冷めた目線で物事を見ている主人公の理帆子が、唯一夢中になる『ドラえもん』。各章のタイトルもすべてドラえもんの持つ道具から構成されていて、「ドラえもんはそんな道具も持っていたのか」と楽しみながら読むこともできます。

 

…と言いながらも、この作品もけっこう重い作品で、これは他の辻村作品にも言えることですが、ひとつの物事や感情を深く掘り下げるような描き方をしているので、苦手な人は苦手かな、という感じがします。

個人的な印象だけど、良くも悪くも辻村作品って「そこまで突き詰めるか」と思うような描写が特徴だと思うので、

それがぴったりハマる人にとってはすごく面白いし、「あ、私こういうテーマ苦手なんだよね」と感じる人には、「この作品は読めない」という作品もあるのではないかと思う。

 

今回の『凍りのくじら』も、読む人にとってはラストの方まではけっこう暗く感じられるかも。

とりわけ、理帆子の元カレ、若尾が強烈で。。読んでて思わず「怖っ」と心でつぶやいてしまうくらい(笑)

 

でも、私にとってこの作品は決して暗い話ではなく、辻村作品の中でも特別枠というか、他の作品とはちょっと違う感じで好きな作品です。

たしかに主人公の理帆子にも、周りの人にもあまり良いことが起こらない話の流れは重いのだけど、

その分、理帆子の前に現れる先輩、別所あきらの出てくるシーンにすごくほっとするし、

彼の前では理帆子も本来の理帆子になれるので、シーン全体にほんわかした安心感がただよっています。

 

更に物語が進み、理帆子は郁也という少年と、彼の保護者のような存在である多恵という女性に出会うのですが、

この2人がとても良い個性を持っていて、理帆子の心がどんどん溶けていく様子は、読んでて素直に嬉しくなる。

様々な人との出会いと別れを経て、理帆子が自分の真髄にたどり着く。

これはそういう、とても前向きな物語だと思います。

 

あと、私は小さい頃からなぜかくじらが大好きなので、この作品については無意識にタイトルに惹かれている部分もあるかも。

 

もちろん、他の辻村作品とのリンクもあります!

この作品は特にリンクが多い気がするので、辻村作品の中でも早目に読むことをおすすめします。

多少順番が前後してもそんなに支障はないのですが、やっぱり『名前探しの放課後』を読む前には読んでおいた方が良い作品です。

 

以下、ネタバレを含んだ感想になるのでご注意ください。

 

感想(ネタバレあり)

いつも人と距離を取って冷めているような理帆子が、人との関わりの中で本来の心を取り戻していくようなこの物語。

私にとっては何冊目かの辻村作品だったのもあり、初めて読んだ時も別所あきらの正体は出てきた瞬間にぴんと来てしまったけれど、

だからと言ってその先の展開がつまらないことはまったくなく、辻村さんの描く人間の「人間らしさ」を、相変わらず存分に味わうことのできる作品でした。

 

最初はただただ若尾のインパクトが強くて。。(笑)

彼はほんと最後まで恐ろしいキャラクターだったけど、最終的にはどうなったのかちょっと気になるところではあります。

 

今回で読むのは3回目なので、初読と比べるとだいぶ若尾の印象は薄くなり(笑)、その他の登場人物にもしっかり注目することができました。

理帆子の友人たちも絶妙に人間味があり、遊び仲間や学校の友人たちの関係性がそれぞれすごく良いなと思う。

 

やるべきことをやってこの世を去る。そんな理帆子のお母さんの生き様もとても格好良くて、お母さんの死と、彼女が最後に作った芦沢光の写真集のシーンは本当に泣けました。

不器用に距離を取った母娘ではあったけれど、理帆子が両親にとても愛されていたのがよくわかる。

 

そしてこの物語に必要不可欠なのが、なんと言っても松永郁也と多恵さん! この2人、本当に大好きで和みます。

なんだか今回は郁也がやたらとかわいく感じられて。理帆子が多恵さんにもらった巾着袋をなくしてしまった後、自分の分をあげようとするところとか、ほんとに健気な良い子だなあ、と思いました。

成長後はかわいい感じは失われてしまうけど(笑)、理帆子と対等な大人に成長していってる感じがなんとも微笑ましい。

彼は理帆子より6、7歳年下のはずなので、ラストシーンでは18歳くらい?

このラストも清々しくて、透明な流氷のように清涼なイメージと、暗い海の底に強く、まっすぐ届く光が見えるようなイメージがあります。

この作品に相応しい、成長した理帆子の格好良さを感じるラスト。

 

順番が前後してしまったけど、一番好きなシーンは、やっぱり「テキオー灯」を持った別所あきらが現れてから、その別れまで。

あきらの言葉に、涙が止まりませんでした。

海の底のような暗闇に差す光が、どれだけ強く美しく、心強いか。

あきらのライトを正面から受ける理帆子の様子が鮮明に思い浮かんで、何度読んでも心が震えます。

 

このシーンで、これまであきらの写真のモデルとして行動を共にしていたはずの理帆子が、実は自分自身でカメラを持って写真を撮っていたことがわかるのだけど、

初読の時は何の違和感もなく読み進めていた自分に驚きました(笑)

こういう書き方も、辻村さんはほんとに上手いなあ。。

 

他の辻村作品同様、ボリュームもあり、とても読み応えのあるお話でした。

 

順調に読み返してきた辻村作品、

やっぱり寒いうちに読まなきゃな、と、今は『冷たい校舎の時は止まる』を読み返しています。

これ、ちょうど2年前にも読み返してたんだけど、いろいろあってその時は最後まで読めなかったので、今度こそラストまで読みたいと思います。

その後は続編と言うか短編集も読むつもりですが、他にも読みたい本ができたのでそっちも楽しみ(´v`*)

順番に感想書いていけたらと思います!

 

Liebe Grüße,

Natsuru

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