辻村深月さんの本を読み返す週間、今回は『子どもたちは夜と遊ぶ』の感想です。
今回読んでみてあらためて、けっこう長いなあ、と感じました。読み応えも十分で、辻村さんの作品の中でもかなり「ミステリらしいミステリ」かと思います。
ネタバレを始める前に一言添えますので、読んだことない方もそこまでは安心してお進みください。
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あらすじ
ちょっと上手くあらすじを書ける気がしないのでざっくりと。。
舞台は主人公たちが通う大学やその周辺。主人公は誰、と言うよりは、メインの登場人物みんなが主人公のような印象です。
夢のために勉学に励む学生、誰にも言えない過去を抱えている学生、穏やかだけれどどこかつかめない教授。
この物語では彼らを取り巻く環境や人間関係、それに付随する感情について、とても丁寧に描かれています。
それぞれの事情を抱えながらも日々を過ごしていた彼ら。しかし、やがて彼らの周りで連続殺人事件が起こるようになり、平和な日常は一変。
なぜ、自分たちの周りで殺人が起こるのか。犯人の意図は何なのか。
そして、2年前に起こったある出来事を彷彿とさせる犯人の名。
彼らは、そして犯人自身も、望むと望まないとに関わらず、事件の真相へ近づいていくのです。
感想(ネタバレなし)
私にとってこの本は、3、4番目くらいに読んだ辻村さんの本で、今回で読むのは3回目くらい。
初めて読んで、すっかり辻村さんに騙されていたことに途中で気づいた時は「やられた!」と思いました(笑)
真相を知ってから読み返すと、最初からもう伏線だらけ。読み返して二度楽しめるのが、こういうミステリの醍醐味だと思います。
けっこうグロテスクな描写もあるので(虫がものすごく嫌いな人とかは、想像するだけでぞっとするシーンもあるのでちょっと注意かも。私も嫌いですが(笑))、読むときはそれを覚悟した方が良いかも。
でも、殺人事件を扱っているとは言え暗くて重いだけの物語ではないし、最後には主人公たちにすごく愛着が湧いてしまって、その心情を想い涙するシーンも。
あと、ラストがすごく良いです。いろいろな意味を含めて、「すべてがクリアになった」っていう印象。
ぽっかりと穴が開いたような、きれいだけどなんとも言えない切なさもあるというか。色で言うと透明とか、白色を思い浮かべる感じ。
読み終わった後、ついまたエピローグを読み返して、不思議な感情に満たされる作品。
辻村さんの作品にはけっこう登場する、「女同士の友情のどろどろ感」(?)みたいなものも健在で、この本の中ではそれが「女同士の友情は薄氷を踏むような関係」とたとえられている箇所もあります。
私自身は高校生や大学生になってまでこういう関係を続けていく女子が苦手なので(ある日突然相手が自分を嫌っている素振りを見せるようになり、それを受け入れられずすがりつく感じとか、逆にそんなふうに仲良かった友達にころっと嫌な態度を取る感じとか。多少なりともこういう友情があることは理解できるのだけど、お互いそれに振り回されていいのはせいぜい中学生くらいまでかなと個人的には思う)、
えーなんで? 友達やめちゃえばいいじゃん! と思ってしまうところもちょいちょいあるのですが(笑)、
でも、こういう複雑な心情を細かいところまでわかりやすく描写して、「うわーそういう感じ! わかるわかる!」っていうことを書いてくれるのが辻村さんの素晴らしさでもある。
きっとこの部分にすごく共感する人もたくさんいるんだろうし、この部分はさておき、私も「そうそう、その感覚、言葉で説明するとそういうこと!」ってぴたっとはまる感じを味わえるような表現がたくさん。
登場人物一人ひとりに丁寧にスポットを当て、そういう心情を描いてくれる。だから活き活きとした彼らの動向から目が放せなくなるし、けっこう分厚い本なのにするすると読めてしまう気がします。
読み終えたらわかると思うのですが、この作品だけで物語が完結するわけではなく、謎を残して終わる部分もあります。
この作品を読んだ後はぜひ、『僕のメジャースプーン』を読むことをおすすめします。
ここから先はネタバレありの感想になりますので、ご注意ください。
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感想(ネタバレあり)
それぞれの登場人物に特徴的な個性があり、それぞれが人間らしい辻村作品。
私はやっぱり、月子と浅葱が好きでした。
読者がすっかりだまされてしまう月子と孤塚の関係。浅葱が読者と同じような思い違いをしていなかったなら(普通気づくだろ!とは思ってしまうけど(笑))、悲しい事件が起こる前に2人は結ばれていたのかもしれない、と思うと切ないです。
月子と狐塚は完全にミスリードを誘っているので「ずるい!」とも思うけど、見事なまでにだまされた感が逆に気持ち良かったです(笑)
真実に気づいていない時は、月子がサーカスに浅葱を誘ったり狐塚が真紀ちゃんを誘っているのを見て、「え、これどうなっちゃうの?」ってちょっと心配したものです(笑)
こういう、ある人物は名前で描写し、ある人物は名字で描写し…と書き分けているのに、違和感をまったく感じさせない辻村さんはすごい。それは他の作品においても。
前述のように私は女同士のどろどろした友情にあまり共感ができないので、月子と紫乃の関係は好きではないのだけど、
彼女たちがバイト先で仲良くなったエピソードはなんかいいなあと思うし、紫乃のおじいちゃんの葬儀の際のエピソードも好きで、こういう絶妙なエピソードを入れてくるところがさすが辻村さん、と思う。こういうエピソードもあるから、月子は紫乃から離れられないんだよね。
あと、浅葱が初めて月子と出会った時のエピソードも好き。
武装するようにメイクとファッションで外見を固めている月子が、圧倒的に他の子と違うところ。彼女の持つ優しさに、浅葱が惹かれたのがよくわかる。
対して、月子が浅葱のことを好きになったエピソードも好きです。クールで見た目も格好良いところではなく、彼の人間らしく、格好悪い部分に惹かれたところ。
なので、2人が結ばれることはないのかと思うととても切なくて、たまらなく月子を愛しく想っていた浅葱の姿に泣きました。
まあ浅葱が悪いと言えばそれまでなのですが、彼も彼で被害者なので。
でもそんなふうに2人を愛しく思うからこそ、エピローグは本当に良かった。
記憶を失くした月子に浅葱が説明する「ありえない真実」を見ていると、大事な何かを失ってしまったような切ない気持ちにさせられるし、彼の語ることがすべて真実だったら良かったのにな、と切にも思う。
浅葱の「俺はお前が大好きだったよ」という最後の告白が胸に刺さるようでなんとも言えない。でも、彼がこの言葉を口にできて本当に良かったなと思います。
そして恭司は本当に格好良かった。全編通してそこまで出番が多いわけではないけれど、この物語にとってとても良いスパイスになっているし、エピローグからもわかるようにキーパーソンだったと思います。
そしてひとり大人の風格をただよわせる秋先生。彼は他の辻村作品にも出てくるけれど、もっと彼の若い頃や過去のエピソードを読んでみたい気にさせられます。
なんかうさんくさい雰囲気も出そうな性格やしゃべり方なのに、私の受けた限りではそういう印象がまったくなくて、「この人がいれば安心」みたいな絶対的な安心感さえある。知れば知るほど不思議な深みのある人です。
読み返して思うのは、やっぱりこの作品は面白い。読み出すと止まらなくなります。
読んでいて辛いシーンもあるけれど、個性豊かな登場人物たちがとても愛おしい。また何年かしたら、他の作品と同じように読み返すんだろうな。
というわけで、今は『凍りのくじら』を読んでいます。こちらもついハイペースになっていて、もう読み終わってしまいそう(笑)
読後、また感想をアップしたいと思います^^
Liebe Grüße,
Natsuru
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