辻村深月 『スロウハイツの神様』感想

基本的に、本は借りるより買って読む派なのですが
(借りると返却期限が気になって自分のペースで読めない気がするため)、
置くスペースの問題もあり、あまりひょいひょい新しい本を買うわけにもいかず、
そうすると必然的に家にある本をくり返し読む機会が増えるわけで…。

一定期間経つとふと読み返したくなるシリーズというのが自分の中にあって、
辻村深月さんの本もそのシリーズのひとつです。

辻村さんの本は映画にもなった『ツナグ』が一番有名なのかもしれないけど、
個人的には他の作品の方が面白いと思う。

辻村さんの本は基本的に、違う作品でも世界が微妙にリンクしていて、
前の作品では主役だった人がこっちの作品では脇役として登場、みたいに
その手の展開が大好きな人にはたまらない作品が多いです。

全作を読んだわけではないのですが、
講談社さんの『冷たい校舎の時は止まる』から始まって順次出版されている作品は、
できればぜひ、出版された順番に読んでいってもらいたい代物。
(順番は前後しても普通に独立した作品として楽しめますが、
作品によっては味わいが半減してしまうものもあるかも)

『冷たい校舎の時は止まる』はちょっと特別枠に入る気もするので、
『子どもたちは夜と遊ぶ』からでも問題はないかと思います。

その中でも、一、二を争うくらい好きな作品が、
仲の良い友人がすすめてくれた、『スロウハイツの神様』という本。

「出版された順番に」と書いたばかりですが、
私自身はこの本が、初めて読んだ辻村さんの作品でした。

この本は、かつて手塚治虫を筆頭として数々の著名な漫画家さんたちが
共同生活を送っていた「トキワ荘」のように、
様々な分野でプロの道を目指す才能ある若者たちが、
同じアパートに住んで、お互いに刺激を与え合いながら生活する様を描いたもの。

その若者たちの中には、すでにプロデビューを果たしている人物、
それどころか、誰もが名前を知っているような人気作家も住んでいたりします。

脚本家兼、アパート「スロウハイツ」のオーナー、赤羽環。
漫画家志望の狩野壮太。
映画監督志望の長野正義。
画家志望の森永すみれ。
中高生に絶大な人気を誇るチヨダ・コーキと、編集者の黒木智志。

一応、主には環が主人公として描かれてはいるのですが、
登場人物一人ひとりのエピソードが濃くて、まさに一人ひとりが主人公、という感じがします。

辻村さんの作品は、良い意味で「小説なのに漫画を読んでる」ような感覚に近い。
そのくらい、キャラクターの表情や特性を明確にイメージすることができて、
勢いに乗ってさくさく読めてしまいます。

「女性特有のどろどろした感情」を描くのが得意な作家さんだという気もするので、
男性にはとっつきにくいところもあるかもしれませんが(私自身もどろどろした感じはちょっと苦手なのですが)、
女性のなんとも表しがたい心情とか、本当に上手く表現するなあ、と思わされることも多々あります。

この作品は特に、「何かを創る」のが好きな人には
かなり共感できるシーンがたくさんあると思うので、
そういった方にぜひ読んでもらいたいなと思います。

辻村さんの作品はミステリ要素も強いので、初めて読んだときにはいろいろ驚かされる場面あり、
2回目以降は、張られた伏線を楽しみながら1回目とは違った形で読むことができます^^

というわけで、本当におすすめの1冊です!

さて。
ネタバレを避けると結局当たりさわりない感想になってしまうので、
以下はちょっと内容に触れていきます。

ネタバレしたくない方はご注意ください。

この作品は、本当に登場人物の一人ひとりに共感できる部分があったり、
こういう人いるよなあ、ってリアルに思えたりするので、
誰のエピソードを読んでいてもすごく面白い。

特に下巻。
物語がどんどん佳境に入っていくにつれて、本をめくる手が止まらなくなってしまいます。

スーと年下の五十嵐くんの恋愛の仕方はやっぱり第三者から見ると痛々しいしバカバカしいけど、
こういう恋愛しかできない人っているんだろうなってすごくわかる気がするし、
でも結局、環とのぶつかり合いを経て自分のいるべき場所にスーが戻ってくるシーンが、
今回、何度目かに読んだ中でぐっと来ました。

ぐっと来ると言えば、何度読んでもぐっと来るのはやっぱり、
「コーキの天使ちゃん」が新聞社に投稿した手紙の内容。
これも読むたびにあらためて、なんてまっすぐに気持ちを伝えてくる手紙だろう、って思う。
初回は普通に読んでしまう部分もあったけど、
今はコーキの気持ちになって読まずにいられないシーンです。

そしてやっぱり大好きな章は、「二十代の千代田公輝は死にたかった」。

この作品の章タイトルはどれも味があって好きなんだけど、
この章はタイトルだけでも良い意味でぞくっとするものがある。

ここまでずっとこの作品を読んできた人にだけ、
この章のページをめくって目に飛び込んでくる1行目に、
どれだけの意味がこめられているかがわかると思う。

今回読み返して、今まであまり考えたことなかったけど、
この作品で一番好きな登場人物を挙げるなら、私はチヨダ・コーキだな、と思いました。

不器用だけど人間くさくて、自分を救ってくれた環のために一生懸命になる姿が本当に愛しく思える。
ストーカーと言えばストーカーな行為の数々をしているけれども(笑)、
彼だからこそ、読んでいる側も応援したくなっちゃう感じ。

コーキが環のためにテレビを買ったり図書館に本を寄贈したりしちゃうシーンとか、
初めて読んだときはちょっとやりすぎと言うか、
急にこの物語が「現実にありそうな話」から「フィクション」という印象になっちゃった気もしたんだけど、
まあ「小説」なんだからフィクションであることは当たり前だし、
今はこの展開を逆に楽しんで読める気がする。

そしてこのコーキの過去から、大人になった環との再会のシーンへの流れが素晴らしいと思います。

初めて読んだときは、なぜかこのコーキの過去のシーンでぼろぼろ泣いた気がするなあ。
最近は楽しみながら読んでる部分も強いので、泣きはしないかも。

その代わり今回は、「黒木智志は創作する」の章で、
飛び降り自殺した小学生の女の子が持っていたという本がコウちゃんの本なんじゃないか、
と心配した環がコーキのもとに駆けつけるシーンを読んでいるとき、
電車の中で泣きそうになってしまいました。

互いに絶大な恩義を感じ、相手を本当に愛しく、大切に思い、
それでもなかなか相手に触れられずにいるこの2人の関係が好きです。
だからこそラストシーンはほんとにハッピーエンドだ、と感じながら読むことができて、
読後感も爽やかで最高。

辻村さんの別の作品、『凍りのくじら』とも良い感じにリンクしていて、
そこも見どころだと思います。

とか綴っていたら、例によって他の作品も読み返したくなったので、
また順次感想をアップできたらいいなと思います^^

最近だいぶ寒いので、寒さに浸りながら『冷たい校舎の時は止まる』でも読もうかな、
と思います(´v`*)

Liebe Grüße,
Natsuru

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