久々に観たオペラ座の舞台感想(ネタバレあり)。
シーンをなぞりながら、あれこれ個人的な意見を語っていきたいと思います。
本格的に解釈しようとすると原語で歌詞を読んだりした方が良いのでしょうが、
劇団四季の訳詞はかなり原作の意図を酌んで作られていると思うので、
今回は日本語版歌詞を引用していきます。
<ACT.1>
★プロローグ~オーヴァチュア
ミステリアスなオークションのプロローグは、ほんとにオペラ座の魅力だと思う。
これから舞台で語られる「オペラ座の怪人にまつわる一連の事件」が終わって何年も経った後のシーン。
若くて颯爽とした青年だったラウルは車椅子に乗る老人になり、
事件後、ラウルと結婚したはずのクリスティーヌはすでに他界。
それでもラウルがこのオークションにやって来るくらい、
結婚後のクリスティーヌは絶えずファントムとの思い出についてラウルに語っていたのではないかと想像されるシーンです。
ぴりぴりとした緊張感がたまらない。
大きなシャンデリアがずずず、と前に押し出された時のわくわく感も然り。
そしてシャンデリアに火が灯ると共に、舞台も観客席も一気に時間を遡るこの演出、
本当に格好良いです。
オペラ座は最近の四季にしては珍しく生オケなので、そこも嬉しいポイントです。
★ハンニバル
カルロッタ、自信に満ち溢れる中にも憎まれ役感があってなんだかかわいかった^^
このシーンの見どころはやっぱり、稽古で踊りながらもすでにファントムの気配を感じとってダンスが疎かになるクリスティーヌかなと。
この頃のクリスティーヌは毎晩歌のレッスンをしてくれる音楽の天使とオペラ座に潜むファントムが同一人物であることにうすうす気づきつつも、
そんなはずはない、と自分自身で否定しているような感じ。
この曲の中でオペラ座の支配人が交代したり、主な登場人物の説明がなされたりするけど、
すっきりまとまっていて良い構成だなあ、とあらためて思いました。
★スィンク・オブ・ミー
「スィンク」という表記に違和感を覚えつつも、
四季のCDではこういう表記なのでこれで(笑)
このシーンを含め、なぜかファントムの存在に一番初めに気づくのはなぜかメグ・ジリーである、
というのが面白いポイントだと思います。
私はメグは心からクリスティーヌを応援し、支え、その才能を尊敬していると思っているのですが、
それでもどうしても、ファントムに選ばれたのがクリスティーヌだということを無意識のうちに「羨ましい」と感じている複雑な人物であると思います。
本人が自覚していないところでの、思慕のようなファントムへの複雑な感情は、
同じようにファントムに畏敬の念を抱く母、マダム・ジリーの影響が少なからずあると思うのですが。
正体のわからないファントムに好奇心を抱き、
けれど何か知っている風の母親にも詳しいことは教えてもらえず、
常にファントムの気配を探し求めているメグ・ジリー。
父親は一体誰なのかとか、そういうところも気になる点だけど、
このメグとマダム・ジリーとファントムとの関係は、
同じくアンドリュー・ロイド=ウェバー作品である『CATS』のディミータ、ボンバルリーナと犯罪王マキャヴィティに通ずるところがある気がします。
人間離れしたものに憧れずにはいられない人間の習性というか、
このジリー親子の物語への絡み方は、サイドストーリーとしてかなり楽しめると思います。
そして肝心の「スィンク・オブ・ミー」の歌詞。
これは美しい別れの歌ですが、
この時点ですでに、「ファントムとクリスティーヌの別れ」を暗示している歌なのだと、私は解釈しています。
これまで「2人きりの世界」を堪能していたクリスティーヌとファントムのもとに、
ラウルという新たな役回りを持つ人物が現れ、
その世界が徐々に壊されていく「終わり」と「始まり」の歌。
そんな切ない歌だけれど旋律は本当に美しくて、
つい惹きこまれてしまうシーンです。
★エンジェル・オブ・ミュージック
クリスティーヌの主演舞台の大成功を祝い、楽屋にやって来たメグのうたい出しから始まるシーン。
これもまたほんとにハーモニーが美しい歌。
歌を教えてくれる音楽の天使(ファントム)のことを幸せそうに語るクリスティーヌを見て、
メグが「冷たい 青ざめてるわ」と言うのが印象的。
クリスティーヌは音楽の天使のことを考えて幸せに満たされている反面、
実は彼が「オペラ座の怪人」なのではないかと疑っている。
このまま感情に溺れて音楽の天使の虜になってしまったら、自分はどうなってしまうのかと、
クリスティーヌの理性が自分自身に忠告をしてきているのだと思います。
このクリスティーヌの「理性」と「感情」の対立。
実は今回の観劇で、もっとも注目してみたいと思っていた部分です。
詳しくはもう少し先のシーンにて。
★リトルロッテ
クリスティーヌの幼馴染、ラウルの登場。
そして2人でむかしを懐かしむのですが、
時折登場する「かわいいロッテ」という愛称。
私は何かのごっこ遊びみたいなものをしている時のクリスティーヌの愛称だったのかなと思ってあまり気にせず観ているのですが、
後から旦那に「たまに出てくるロッテという名前がカルロッタの愛称なのかと思って混乱した」と言われて笑った(笑)
そんなこと考えたこともなかったわ!(笑)
でもまあたしかに、「いきなりかわいいロッテとか言い出してどうした」感はあるなあ、とあらためて思った(笑)
要はクリスティーヌとラウルがかなり仲の良かった幼なじみであることを表現するためのシーンだと思うので、
いちいち真面目にとらえなくて良いんだとは思うけどね(笑)
★ザ・ミラー(エンジェル・オブ・ミュージック)
「私の宝物に手を出すやつ 無礼な若造め 愚か者め」
という、突然現れたラウルに対して怒るファントムのうたい出し、ほんと好き!
ファントムの力強さとか、闇に吸い込まれそうな迫力とか、
今まで気配しかなかったものがついに浮彫になるシーンなので、
おそらく演じる側も力が入るだろうなと思います。
鏡の向こう側からファントムが現れ、クリスティーヌをつれて行くときのセットは「残念」と言う人もいるみたいだけど、
私はこれで十分な気がする。
当たり前だけど、このシーンでのメインってセットではなくてファントムとクリスティーヌの歌なので。
★オペラ座の怪人
「ザ・ミラー」からの、オペラ座切ってのテーマ曲への転換がしびれる。
霧に包まれる湖とか無数の蝋燭もミステリアスな演出になっていて良い(´v`*)
クリスティーヌはこのシーンで、今まで確信は持てなかった「音楽の天使」=「ファントム」説を肯定。
しかし何度聞いても、クリスティーヌの最後の高音はすごいなあ。。
★ザ・ミュージック・オブ・ザ・ナイト
ファントムのクリスティーヌへの純粋な想いが語られる歌。
クリスティーヌを愛している=結婚したい(ウェディングドレスを用意している)、
に直結するのが、クリスティーヌの父親になってもおかしくないくらいの年齢(だと思う)にも関わらず、
ファントムが少年のように無垢な心を合わせ持っているのを象徴している気がする。
自分では気づいていないかもしれないけど、
ファントムはクリスティーヌを娘のように導き愛する一方で、
与えられることのなかった母親からの愛もクリスティーヌに求めている。
誰にも愛されずに育ってきたせいで、まっすぐな純粋さを持ちながらその愛情を歪ませてしまったファントム。
でも、「結局はわがままな子どものような人物」でまとめたくはないというか、
そうでありながらも彼は非常に色気のある大人の男だと思うので、
クリスティーヌもまた、そういった部分に亡くした父の姿を重ね、惹かれたのだと思います。
母性の視点からファントムを見ることもどこかではあったかもしれないけど、
私の中であまりクリスティーヌと母性って結びつかないんだよね。
ジーザスのマグダラのマリアが持っているような包み込むような愛と、
クリスティーヌのファントムに対する愛はやっぱり違うなあと、なんとなくだけど思います。
★怪人の隠れ家
クリスティーヌがファントムの仮面を取り、ファントムに罵倒されるシーン。
自分の記憶のファントムより、今回のファントムはけっこうか細い声というか、
すごい怒りに満ち溢れている、っていう演技ではなかった気がするので個人的にはちょっぴり違和感だったかも。
最近はこのシーンではこういう演技が主流なのかな。
それにしてもここの歌詞ってすごいよね、、「この悪党」とか「地獄へゆけ、呪われろ」とか。
愛するクリスティーヌにさえもこんなことを言ってしまうくらい仮面を取られて動揺してるっていうことだと思うんだけど、
役者さん目線で見るとここはちょっと感情を込めにくそう。。
ちょっと疑問に思ってるのですが、
ファントムって生まれながらに奇形だったんだと思うんだけど、
ここで「業火に焼かれた無残な姿になろうと」って言ってるのはいつの話なんだろう。
生まれながらに奇形だったから、そのまま赤ん坊を殺そうとして火をつけたとか?
と、不思議に思いつつ。
ここでファントムの顔をクリスティーヌが間近で見るとき、
一幕ラストと二幕のラストにある歌と同じ旋律が流れるのが深いと思う。
ここでは歌詞はついてないけど、
一幕ラストではラウルといるときにクリスティーヌがファントムの目を思い出し、
「悲しみに満ち溢れて 憧れを宿していた」とうたうときのメロディ。
二幕ラストでは、ラウルを殺そうとするファントムに、
クリスティーヌが「醜さは顔ではないわ 穢れは心の中よ」と語るときのメロディ。
このシーンで、クリスティーヌはファントムの瞳を真正面から見つめ、彼の本質を知ったんじゃないかと思う。
焼けただれた顔は恐ろしかったけれど、その目はとても美しくて、
この時点からクリスティーヌはファントムの顔を醜いなんて思っていないんだろうな、と。
でもどうしても、クリスティーヌ自身の「理性」の部分がファントムをその姿から、
「恐ろしい人」だと思い込んでしまった感もぬぐえないシーンだなと思います。
★舞台裏
ブケーがファントムの真似をし、ダンサーの女の子たちを怖がらせているシーン。
よく考えるとなぜこんな場所をファントムとクリスティーヌが普通に歩いて通りすがるのかとかちょっと疑問だけど(笑)、
最後のブケーの恐怖する顔とマダム・ジリーの指さしポーズが決まってるのが好きです(笑)
★支配人のオフィス
ムッシュ・アンドレとムッシュ・フィルマンは一番の常識人というか、
危ういまま進んでいくこの物語を軌道修正してくれる人たちだなと思います。
出てくるとなんか和む(´v`*)
ファントムからの手紙を読む際、みんながゆっくり立ち位置を移動していく演出がむかしから好き。
★プリマ・ドンナ
やっぱりこの曲の美しいハーモニーはオペラ座一幕の見せ場!
それぞれの登場人物の思いが複雑に絡み合って音として調和する、
これでこそミュージカルだなーと思います。
ということでミュージカルにはよくある演出なんだけど、
なんかオペラ座だとそのハーモニーの美しさがまた格別な気がしちゃうんだよね。
何回も観ている私も普段は全員の歌を聞き取れないので、
旦那には事前に
「なんて言ってるかわからない歌があると思うけど、
支配人とピアンジは機嫌を損ねたカルロッタをよいしょしており、
メグとラウルはクリスティーヌを守らなくては、と思っており、
マダム・ジリーはファントムを敵に回しても勝ち目なんかない、と忠告しているのだと思っておけばOK」
と説明していました(笑)
歌詞も大事だけど、それを抜きにしてハーモニーを存分に楽しんじゃっても良い歌だと思います。
★イル・ムート
ファントムの忠告を守らずにカルロッタが主役の舞台が開幕するシーンですが、
実は個人的には、この曲でこそファントムの格好よさが炸裂すると思っています(笑)
どこが好きって、カルロッタの声が蛙になってしまった時に舞台の上方で「ハハハハ」って笑うシーン(笑)
ここの笑い方は悪役そのものですごく格好良いし演じる側も楽しそうだし、
むかしから大好きなシーンです(´v`*)
カルロッタの見事な蛙っぷりもほんと脱帽してしまう。
やっぱりブケーの首吊りはちょっとしょぼいので、もう少し格好良い演出だったら良いなとは思うけど。。
★オペラ座の屋上
このシーンの緊迫感、好きです。
クリスティーヌとラウルの、畳み掛けるようなうたい方とか。
クリスティーヌがファントムを恐れながらも、
「あの声はすべてをつつみ 私の夢の中に ささやきかけてくるわ」と夢見るように語り出す部分、
クリスティーヌが内に持つ矛盾がわかりやすく表れています。
★オール・アイ・アスク・オブ・ユー
これもこの作品における名曲のひとつ。
誰よりも頼りになるラウルの存在、その優しさ、それによってクリスティーヌが得る安心感がすでに曲調だけで表れていると思う。
個人的には、結婚式でBGMにするのにもおすすめの1曲(´v`*)
この曲中でも、不意にファントムの気配を探し求めるようにあらぬ方向を向いてラウルに引き戻されるクリスティーヌが印象的でした。
この曲でラウルが言う「クリスティーヌ アイラブユー」と、
二幕ラストでファントムが言う「クリスティーヌ アイラブユー」の違いがまた注目ポイント。
ラウルの「アイラブユー」は優しくて本当にラウルらしいし、
まさに劣等感も何もない好青年の告白という感じ。
クリスティーヌとラウルが仲良く去って行った後、ファントムが姿を現すのですが、
横浜公演ファントムは劇場の都合からか、天井から吊られる彫像ではなく
舞台上の天使の彫像の背後から姿を現します。
クリスティーヌの裏切りに心を痛めていたファントムが開き直り(?)、
「決して許しはしないぞ」と宣言するシーンはほんと大迫力(´v`*)
いつも思うのは舞台上の稲妻がちょっとしょぼいので他の演出があればいいなあということなんだけど、、
シャンデリアの落下、最後の曲調、見事な一幕最後だと思います。
あらためて、「これでこそオペラ座!」っていうシーンがたくさんあるのは良いものだなあ。
そんなわけでやっぱりマニアック且つ長くなっておりますが(笑)、
次は二幕の感想に続きます。
Liebe Grüße,
Natsuru
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