
その関連でご紹介したい漫画をひとつ。
高野文子さんの、『棒がいっぽん』という漫画。
初版は1995年。6つの作品が描かれている短編集です。
もともと私は高尾滋さんという漫画家さんが大好きで、こちらも後々紹介したいなと思うのですが、
コミックの柱スペースで、高尾さんが一番好きな作品として挙げていた
『棒がいっぽん』に収録されている「美しき町」。
このお話を読んでみたいなと思ったのが、この本を手に取ったきっかけでした。
「美しき町」の舞台は高度経済成長期にある日本のとある町。
町の工場で働くノブオさんと、奥さんのサナエさんの日常が描かれています。
それは本当に他愛もない日常で、何も起こらないと言ったら嘘になるけれど、
2人の人生を大きく左右するような出来事が起こるわけでもなく、
ぼーっとしているうちに、さらっと読み終わってしまうかもしれない物語。
でもなんだか、ノブオさんとサナエさんの2人の心の在り方が美しくて、
かみしめるように何度も読んでしまいます。
大恋愛の末に結婚したとか、そういう2人ではないけれど、
お互いを一緒に生きていくパートナーとして尊重して、
多くを語らずとも協力し合える姿が素敵。
こんなふうに積み重ねた日常を、いつか2人で懐かしく思い出す。
そんな夫婦って理想的だなあと思います。
ちなみに、作中で「サナエさんは(中略)誇りのようなものを感じました」という一節があるのですが、
初めて読んだ時から、妙にこのコマが印象に残っています。
私だったら「めんどくさい!」と感じてしまうようなことに対して、
こんな感じ方をできるサナエさんって格好いいな、って憧れてしまう。
そんなサナエさんを静かにリードしていくノブオさんも、筋の通った人柄で格好いい。
やっぱりいつまでも色褪せない作品って、
大切なことをこうしてシンプルに表現している作品のことだなと思わされます。
その他、この『棒がいっぽん』という短編集は、収録されているすべての作品の切り口、描き方が非常に独特。
最後の「奥村さんのお茄子」は特にすごいと思う。
この話、たとえ思いついたとしてもそれを絵と言葉で上手く表現し、読者に伝えることができるかを考えたら、、、
私だったら、途中で挫折してしまいそうです。
それだけ発想が突飛。
だけど、すごく面白いです。
「バスで四時に」もお気に入り。
眠くてうつらうつらする時に見る意味不明な幻覚(?)とか、
なんでこんなに上手く表現できるんだろう!って思う。
ほんわりあたたかな結末も印象的です。
以前紹介したいしいしんじさんの本みたいに、この漫画もきっと、頭と心をやわらかくして読んだ方が味わい深くなる漫画。
ほっと一息つきたいときに、お茶を飲みながらほっこりした気分になれそうだなあと思います。
Liebe Grüße,
Natsuru
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