うすうす感じていた嫌な予感が現実のものとなった時、私はただ愕然としながら、その事実を受け入れざるを得なかった。
荷物が入らない。
明日から念願のドイツ留学。
本来ならさっさと眠って出発に備えるべき時刻であるにも関わらず、荷造りが終わらないという現実。
恐るべし自分の無計画性。こんなはずじゃなかったのに。
そもそも、旅立ちには意外と出かける直前になって鞄に入る荷物が少なくない。
言い換えると、直前にならないと鞄に入れられないような荷物が意外と多い。
洗面用具や携帯・カメラの充電器。ノートパソコン、使用用途がいまいち曖昧なケーブル各種。
それらをぽぽいと放り込んでみて初めて、荷物が鞄の許容範囲を越えていることに気づかされた。
当然、重量もオーバーしている。
第一、「20kgまでは飛行機OK☆」だからと言って、本当に20kgになってしまったスーツケースを、
軟弱な私が(キャスターがついているとは言え)思いのままに操られるかはかなり怪しい。
それなのにすでに、スーツケースはいとも容易く20kgをオーバーしている。
手荷物だって重量オーバー。
これ以上何を減らせと言うのか。私は泣きそうだった。
なぜ留学前夜にこんなにあわてる破目になるのか。
しんみりする暇もありはしない。
結局、一部の荷物は泣く泣く宅急便で現地に送ることに決め、
部屋に戻った私はあわてて出発前に家族に渡す手紙を書いた。
それから早々にベッドにもぐり、同じように早々に起きた。
無計画な私に許された睡眠時間はたったの2時間。
こんなバッドコンディションで運命の日を迎えることになろうとは。
仕事に行く父を見送り、うららかな3月の気候の中、ドイツの寒さを想定してあれやこれやと着込んだ私は、
「暑い、重い」とうめきながら母と共に成田へ向かった。
空港にはすでに、一緒にドイツへ留学することになっていた大学の友人、レオナと潤が到着していて、
私たちはそそくさとスーツケースを預けた後、見送りに来てくれた家族や友達と食事をしながら出発までの時間を過ごした。
そしてついに出発の時刻。
空港のゲートでお別れするということはこんなにも寂しいものなのかと痛感しながら、
私たちは家族や友達に手を振って、晴れやかな気持ちで留学への第一歩を踏み出した。
ちなみに、この時3人一緒に量ったスーツケースの重さは合計64kgだった。
誰の荷物が重量オーバーだったのか、
今までも言及したことはないし、これからも言及するつもりはない。