飛行機の中で

短いようで、やっぱり長い空の旅。

その間、半分くらい私は眠っていたと思う。

何せ昨夜の睡眠時間はたったの2時間。これは眠い。寝るしかない。

私の隣ではレオナと潤が機内で流れる『ファンタスティック・フォー』の映画を観ながら何やら爆笑していたけど、気になりつつもやっぱり眠さの方が勝った。

もう半分くらいの時間は、飲むか食べるか、しゃべるかしていた。

とにかく乾燥する機内では、できるかぎり大量の水分摂取を心がけるようにしていたので、

それだけでお腹がたぷたぷに。

日本料理はこれでしばらく食べおさめ、と機内食もぺろりとたいらげ、

今後の生活に役立てようと醤油と塩こしょう、割り箸を拝借。

今にして思えばせこすぎるけど、故郷を遠く離れた時、「日本の味」は重要なエネルギー源になる。

効力的には、おそらくアンパンマンで言うところの「新しい顔」くらいには匹敵すると思う。

これらの記憶に付随して、行きの飛行機で強く印象に残っているのは、

潤が持っていた新聞記事の切り抜きだ。

それはバレエダンサーの熊川哲也さんが、自身の留学時代について語っている記事だった。

印象に残った、と言いつつも、細かい部分は覚えていない。

それでもたった一文だけ、鮮明に覚えている箇所がある。

“差別はあったのかもしれないけど、僕は気にならなかった”

見知らぬ土地で暮らすということ。

日本で生活している間はあまり考えることもない「人種差別」というものを語るこの言葉に、

これから自分がどこかで直面するかもしれない厳しさや不条理さを思い、一瞬、背中が緊張した。

けれどその背を、「僕は気にならなかった」という熊川さんの率直で前向きな一言が、

ぽんと押してくれた気がする。

これから先、何が待っているのかなんてわからない。

見たこともないようなものを見て、会ったこともない性格の人に会うかもしれないし、

楽しいこともあれば当然、悲しいことや辛いこともあると思う。

それでもすべては、気の持ち様にかかっているんだ。

成田を発って、11時間と少しの後。

飛行機はついに、ドイツ、ミュンヘン国際空港に到着した。

留学記目次へ

スポンサードリンク

シェア

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする